40匹のうさぎと王女 後編 [兎雑学・民話]
皆様、お待たせいたしました。
後編でございます。期待していただけたほどの物になっているかどうか・・・。
少々長いですが、ゆるり、とお楽しみいただければと思います。
40匹のうさぎと王女
翌日、少年がうさぎたちを行進させて森から出て行くと、その後を付けていく人影がありました。
少年が森の中の広場でうさぎたちに軍隊の訓練を始めると、その人影が少年に近づき
「訓練をするこのうさぎたちは誰のものですか?」そう尋ねました。
羊飼いの少年はその人物を、変装した王様だとすぐに見破りましたが、気づかない振りをして答えます。
「王のものです。」
全く気づかれていないと思い込んでいる王は「一匹売ってください。」と、持ちかけました。
「ダメです。これは売り物ではないんです。お金を必要としていませんから。」
「お金が必要ではない?では、何が必要ですか?」
少年は、王だと見破っているので、王ができなそうな事を提案して早々に追い払おうと考えました。
「あの軍曹の尻尾の下の泥に口づけして下さい。そうしたら一匹差し上げましょう。」
しかし、見破られていないと思い込んでいる王はあっさりと泥にくちづけをしていまいます。今さら、あげませんとはいえない少年は、うさぎを一匹差し出し、王は意気揚々とうさぎを抱えて帰りました。
王の姿が見えなくなると、少年は考えました。「さて、どうしたらいいんだろう・・・」
俯くと首にかかった笛が目に入ります。
「この笛がまた私を助けてくれるだろうか?」少年は笛を吹いて見ました。
すると、王に抱えられていたうさぎがその腕の中からピョンっと飛び出し、一目散に少年の元に駆け戻ったです。
手ぶらで王宮に帰るしかなかった王は、まさかうさぎに逃げられたとは言えなかったので「あの羊飼いの小僧は、わしに売るのを断りやがった」と、ウソの報告をしました。
これを聞いた王妃は「明日私が行ってきます。女性が頼めば、一匹くらい売ってくれるでしょう」そう言って翌日馬車で森へ向かいました。
少年の所へたどり着いた王妃が「うさぎを一匹売ってくれませんか?」そう頼むと、
「どれも売ることは出来ないのです。でも、あの小隊長のお尻の下の泥に口づけしていただければ、一匹差し上げますよ。」少年が答えました。
王妃は、立場上そんな事は出来ないが、正体がばれていないのと、娘をこんな貧乏人に嫁がせる事がとても嫌だったので、しぶしぶ泥に口づけした。
「さあ、一匹くださいな。」王妃が手を差し出すと、少年が首を振った。
「あのうさぎは小隊長なのです。彼に敬意を表してもっとちゃんと口づけしていただかなくては困ります。」王妃がしぶしぶその場所にしっかり口づけすると、少年は言いました。
「どのうさぎが欲しいのですか?」
「あなたがこれだと思うものを・・・」
王妃が答えると少年はうさぎたちを集めました。
「ご自分でお選び下さい。」
王妃は一匹つかみあげようとしたが、そのとたんうさぎたちは逃げ惑い、捕まえる事が出来ません。それを見た少年は一匹のうさぎに「ここへおいで」と命令しました。
するとうさぎはおとなしく王妃の下へやって来たので、やっと捕まえることができました。
馬車に乗り込むと、王妃は御者に命じました。「出来るだけ早くお城へ帰ってちょうだい。あの少年の気が変わるといけないから。」
王妃の心配をよそに御者はのんびり「塩を、うさぎの尻尾に振りかけたらいいですよ。そうしたら逃げ出したり出来なくなりますから。」と言いました。
「塩なんて持ってないわ、とにかく急いで」王妃がせかしたので、ようやく馬車がスピードをあげた時、少年が笛を吹きました。するとうさぎは、しっかり抱えていた王妃の腕から抜け出し、少年の下へ駆けていきました。
王妃は呆然と座っているしかありませんでした。馬車が王宮に着くと彼女も嘘をつくしかありませんでした。「少年は一匹も売ろうとしませんでしたし、手放そうともしませんでした。」と。
その夜、王と王妃は家来達も交えて協議をし、王女を行かせる事にしました。少年は彼女との結婚を望んでいるのだから、王女が頼めば間違いなく一匹くれるだろうとおもったのです。
翌朝、王女は食べ物が入ったバスケットと、少年をほろ酔いにさせる為のブランデーを持って森に向かいました。ポケットには、王妃が持たせた、うさぎの尻尾へ振り掛ける為の塩の瓶も入っています。
王妃は少年の元へたどり着くと「あなたの為に、食べ物とブランデーを持ってきたわ。ちょっと休憩して召し上がらない?」そう誘いました。
少年は、食べ物と少々のブランデーを口にし、二人はしばらく同じ時を過ごしました。
王女は帰りぎわ、少年に頼みました。
「このかわいらしいうさぎさんを一匹私にいただければ嬉しいのだけど・・・王宮で遊ぶ友達が欲しいの。」
それを聞いた少年は言いました。
「あなたに一匹差し上げれば、分隊長が悲しがるでしょう・・・でも、あなたが彼の為に彼の尻尾の下の土に三度口づけしてくだされば、彼も嫌だとは言わないでしょう。」
王妃は考えました。うさぎを連れて帰ることが出来れば、少年は処刑されてしまうのですから、そんな事をしても誰にも知られる事はない。泥に口づけするのは嫌だけど、こんな貧乏な少年と結婚する方がもっと嫌だ、と。
王妃が分隊長の尻尾の下に三度口づけすると、少年は彼女にうさぎを一匹渡しました。
馬車に乗り込むと、王女は御者をせかして猛スピードで馬車を走らせながら、ポケットの中の塩の瓶を取り出しました。
彼女がまさに尻尾に塩を振りかけようとした時、少年が笛を吹いたので、うさぎは彼女の腕の中から飛び出して、主人の元へ帰っていってしまいました。
「まあ、なんと言う事でしょう」王女は呟きました。「あのうさぎの尻尾の下の泥に三度も口づけしたのに・・・なんて言い訳をしたらいいの?」
王宮にもどった王女は、少年がうさぎをくれようとしなかったと嘘をつきました。皆が彼女に同情しましたが、王と王妃だけは何が起こったのか想像しました。
王と家来達は、焦りました。明日は約束の5日目です。このままでは王女を嫁がせなければなりません。
翌日の夕方、少年が帰ってくるのを出迎えた家来は
「このテストは合格だ。だが、王女と結婚するにはもう一つテストがある。」
そう言って少年を王宮で開かれている宴会の場へ連れて行きました。
少年が連れてこられたのを見た王は、少年をステージの上に呼び寄せ、客人たちに言いました。
「ご列席の紳士・淑女諸君! 王女と結婚する前の最後のテストとして、ここに立っている羊飼いの少年はこの袋を言葉でいっぱいにする。もしできなければ、少年のを処刑する。」
少年は袋の巾を覗き込み、客人たちを見まわし、そして呟きました。「どうやって袋に言葉を詰め込めばいいんだ?」
少年は客人たちの方に向くと「皆さんがたはこの袋を言葉でいっぱいにしてほしいというわけですね。それでは、言葉をこの中に入れましょう。」そう言い、大きな声で袋の中に語りだしました。
「わたしは思っていました……王さまは立派な方であり、約束を守られる方である、と。わたしは王女さまの指から指輪をはずしましたが、王女さまを手に入れたでしょうか?いや、いや、手にはしなかったのです。四〇匹のうさぎを与えられ、一匹でも失えば、死んでもらうと脅されました。そこでうさぎたちの世話をしました。命令どおりにしました。では、王さまは約束を守られたでしょうか? とんでもない。王さまは、森の中のわたしの所にやって来られると、うさぎを一匹買いたいと………」
ここで羊飼いの少年は、少し間をおくと、王に向かって言いました。「王さま、この袋の中をご覧いただけますでしょうか? まだいっぱいはなっていませんか?」
王がいらいらしながら前に進み出てきたので、少年は話をつづけました。「王さまがうさぎを買いたいと、そこまでお話をいたしました。そこでわたしは王さまに、うさぎをお売りすることはできないと申しました。もしうさぎがほしければ」
「やめろ!」と王が怒鳴りました。「やめろ!袋はいっぱいに詰まった。もう十分すぎるほど言葉でいっぱいだ。」
そして王は結婚の許可を与えました。、
しかし、少年は王を倒し、王に代わってその国を立派に治めたのです。
さあ、わたしの語る言葉はもうこれで十分です。
参考文献
イディッシュの民話
ビアトリス・S・ヴァインライヒ 著
青土社 発行
いかがでしたか?
けっこう突っ込みどころ満載の後半です。
長くなるのでもう一つ分ける事を考えたのですが、ラストはまったくうさぎが出てこないので・・・。
長丁場、お付き合いいただいてありがとうございました。
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後編でございます。期待していただけたほどの物になっているかどうか・・・。
少々長いですが、ゆるり、とお楽しみいただければと思います。
40匹のうさぎと王女
翌日、少年がうさぎたちを行進させて森から出て行くと、その後を付けていく人影がありました。
少年が森の中の広場でうさぎたちに軍隊の訓練を始めると、その人影が少年に近づき
「訓練をするこのうさぎたちは誰のものですか?」そう尋ねました。
羊飼いの少年はその人物を、変装した王様だとすぐに見破りましたが、気づかない振りをして答えます。
「王のものです。」
全く気づかれていないと思い込んでいる王は「一匹売ってください。」と、持ちかけました。
「ダメです。これは売り物ではないんです。お金を必要としていませんから。」
「お金が必要ではない?では、何が必要ですか?」
少年は、王だと見破っているので、王ができなそうな事を提案して早々に追い払おうと考えました。
「あの軍曹の尻尾の下の泥に口づけして下さい。そうしたら一匹差し上げましょう。」
しかし、見破られていないと思い込んでいる王はあっさりと泥にくちづけをしていまいます。今さら、あげませんとはいえない少年は、うさぎを一匹差し出し、王は意気揚々とうさぎを抱えて帰りました。
王の姿が見えなくなると、少年は考えました。「さて、どうしたらいいんだろう・・・」
俯くと首にかかった笛が目に入ります。
「この笛がまた私を助けてくれるだろうか?」少年は笛を吹いて見ました。
すると、王に抱えられていたうさぎがその腕の中からピョンっと飛び出し、一目散に少年の元に駆け戻ったです。
手ぶらで王宮に帰るしかなかった王は、まさかうさぎに逃げられたとは言えなかったので「あの羊飼いの小僧は、わしに売るのを断りやがった」と、ウソの報告をしました。
これを聞いた王妃は「明日私が行ってきます。女性が頼めば、一匹くらい売ってくれるでしょう」そう言って翌日馬車で森へ向かいました。
少年の所へたどり着いた王妃が「うさぎを一匹売ってくれませんか?」そう頼むと、
「どれも売ることは出来ないのです。でも、あの小隊長のお尻の下の泥に口づけしていただければ、一匹差し上げますよ。」少年が答えました。
王妃は、立場上そんな事は出来ないが、正体がばれていないのと、娘をこんな貧乏人に嫁がせる事がとても嫌だったので、しぶしぶ泥に口づけした。
「さあ、一匹くださいな。」王妃が手を差し出すと、少年が首を振った。
「あのうさぎは小隊長なのです。彼に敬意を表してもっとちゃんと口づけしていただかなくては困ります。」王妃がしぶしぶその場所にしっかり口づけすると、少年は言いました。
「どのうさぎが欲しいのですか?」
「あなたがこれだと思うものを・・・」
王妃が答えると少年はうさぎたちを集めました。
「ご自分でお選び下さい。」
王妃は一匹つかみあげようとしたが、そのとたんうさぎたちは逃げ惑い、捕まえる事が出来ません。それを見た少年は一匹のうさぎに「ここへおいで」と命令しました。
するとうさぎはおとなしく王妃の下へやって来たので、やっと捕まえることができました。
馬車に乗り込むと、王妃は御者に命じました。「出来るだけ早くお城へ帰ってちょうだい。あの少年の気が変わるといけないから。」
王妃の心配をよそに御者はのんびり「塩を、うさぎの尻尾に振りかけたらいいですよ。そうしたら逃げ出したり出来なくなりますから。」と言いました。
「塩なんて持ってないわ、とにかく急いで」王妃がせかしたので、ようやく馬車がスピードをあげた時、少年が笛を吹きました。するとうさぎは、しっかり抱えていた王妃の腕から抜け出し、少年の下へ駆けていきました。
王妃は呆然と座っているしかありませんでした。馬車が王宮に着くと彼女も嘘をつくしかありませんでした。「少年は一匹も売ろうとしませんでしたし、手放そうともしませんでした。」と。
その夜、王と王妃は家来達も交えて協議をし、王女を行かせる事にしました。少年は彼女との結婚を望んでいるのだから、王女が頼めば間違いなく一匹くれるだろうとおもったのです。
翌朝、王女は食べ物が入ったバスケットと、少年をほろ酔いにさせる為のブランデーを持って森に向かいました。ポケットには、王妃が持たせた、うさぎの尻尾へ振り掛ける為の塩の瓶も入っています。
王妃は少年の元へたどり着くと「あなたの為に、食べ物とブランデーを持ってきたわ。ちょっと休憩して召し上がらない?」そう誘いました。
少年は、食べ物と少々のブランデーを口にし、二人はしばらく同じ時を過ごしました。
王女は帰りぎわ、少年に頼みました。
「このかわいらしいうさぎさんを一匹私にいただければ嬉しいのだけど・・・王宮で遊ぶ友達が欲しいの。」
それを聞いた少年は言いました。
「あなたに一匹差し上げれば、分隊長が悲しがるでしょう・・・でも、あなたが彼の為に彼の尻尾の下の土に三度口づけしてくだされば、彼も嫌だとは言わないでしょう。」
王妃は考えました。うさぎを連れて帰ることが出来れば、少年は処刑されてしまうのですから、そんな事をしても誰にも知られる事はない。泥に口づけするのは嫌だけど、こんな貧乏な少年と結婚する方がもっと嫌だ、と。
王妃が分隊長の尻尾の下に三度口づけすると、少年は彼女にうさぎを一匹渡しました。
馬車に乗り込むと、王女は御者をせかして猛スピードで馬車を走らせながら、ポケットの中の塩の瓶を取り出しました。
彼女がまさに尻尾に塩を振りかけようとした時、少年が笛を吹いたので、うさぎは彼女の腕の中から飛び出して、主人の元へ帰っていってしまいました。
「まあ、なんと言う事でしょう」王女は呟きました。「あのうさぎの尻尾の下の泥に三度も口づけしたのに・・・なんて言い訳をしたらいいの?」
王宮にもどった王女は、少年がうさぎをくれようとしなかったと嘘をつきました。皆が彼女に同情しましたが、王と王妃だけは何が起こったのか想像しました。
王と家来達は、焦りました。明日は約束の5日目です。このままでは王女を嫁がせなければなりません。
翌日の夕方、少年が帰ってくるのを出迎えた家来は
「このテストは合格だ。だが、王女と結婚するにはもう一つテストがある。」
そう言って少年を王宮で開かれている宴会の場へ連れて行きました。
少年が連れてこられたのを見た王は、少年をステージの上に呼び寄せ、客人たちに言いました。
「ご列席の紳士・淑女諸君! 王女と結婚する前の最後のテストとして、ここに立っている羊飼いの少年はこの袋を言葉でいっぱいにする。もしできなければ、少年のを処刑する。」
少年は袋の巾を覗き込み、客人たちを見まわし、そして呟きました。「どうやって袋に言葉を詰め込めばいいんだ?」
少年は客人たちの方に向くと「皆さんがたはこの袋を言葉でいっぱいにしてほしいというわけですね。それでは、言葉をこの中に入れましょう。」そう言い、大きな声で袋の中に語りだしました。
「わたしは思っていました……王さまは立派な方であり、約束を守られる方である、と。わたしは王女さまの指から指輪をはずしましたが、王女さまを手に入れたでしょうか?いや、いや、手にはしなかったのです。四〇匹のうさぎを与えられ、一匹でも失えば、死んでもらうと脅されました。そこでうさぎたちの世話をしました。命令どおりにしました。では、王さまは約束を守られたでしょうか? とんでもない。王さまは、森の中のわたしの所にやって来られると、うさぎを一匹買いたいと………」
ここで羊飼いの少年は、少し間をおくと、王に向かって言いました。「王さま、この袋の中をご覧いただけますでしょうか? まだいっぱいはなっていませんか?」
王がいらいらしながら前に進み出てきたので、少年は話をつづけました。「王さまがうさぎを買いたいと、そこまでお話をいたしました。そこでわたしは王さまに、うさぎをお売りすることはできないと申しました。もしうさぎがほしければ」
「やめろ!」と王が怒鳴りました。「やめろ!袋はいっぱいに詰まった。もう十分すぎるほど言葉でいっぱいだ。」
そして王は結婚の許可を与えました。、
しかし、少年は王を倒し、王に代わってその国を立派に治めたのです。
さあ、わたしの語る言葉はもうこれで十分です。
参考文献
イディッシュの民話
ビアトリス・S・ヴァインライヒ 著
青土社 発行
いかがでしたか?
けっこう突っ込みどころ満載の後半です。
長くなるのでもう一つ分ける事を考えたのですが、ラストはまったくうさぎが出てこないので・・・。
長丁場、お付き合いいただいてありがとうございました。
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